web版:ラッパー宣言(仮)

ビートでバウンス 唇がダンス

午後10時。片付け中、胎を蹴ったと手を止める。

◇いよいよ臨月に入る。来週末から妻は実家に帰るので、二人だけの生活は今週末を最後に、しばらく味わえないものとなる。大して長くもなく物も少ない二人の生活だが、それでもこの部屋の至る所に若い夫婦の痕跡はあり、今週末はそれらを減らしてもうひとり分のスペースを用意する作業に勤しんだ。胎の子供は母の脇腹を押し、妻はそのたびにへっへっへと身を捩らせて笑う。くすぐったいらしい。

◇少し風邪気味なので、水泳はお休み。

◇そういえば金曜日にはアラザル同人の引越もあった。渋谷にあるmpc9000氏の部屋は、アラザルMTG場所としても使わせてもらっており、物理的な活動拠点でもある。このたび、彼がロンドンに越すので、同時にアラザルとしては拠点を失うことになる。彼は今後も原稿執筆やデザイン管理などを行ってくれるのだが、なんとなくweb上の存在になってしまう感じがして、そして彼は非常にそういうのが似合う雰囲気なので、いよいよか、などとひとりごちてしまった。
 だから金曜日はmpc9000邸で行われる最後のMTGであった。不要になったものを譲ってくれるというので、僕はVHS付きのDVDプレイヤーと、本を数冊頂いた。やめました監督が熱心にdigっていて、大谷能生『貧しい音楽』や椹木野衣『シミュレーショニズム』などを低い声で薦めてきてくれた。ありがたく頂く。
 日曜の朝には家を引き払って日本を発つと言っていたから、mpc9000氏はもうイギリスに居るのだろうか。

◇さらに遡って先週の月曜日。小学校時代からの腐れ縁のひとりと町田で飲んだ。彼と飲むと、お互いに彼女や妻が居ることが不思議に思えてきて、毎回失笑する。きっと古い童貞が疼いているのだろう。あの頃のようにくだらない会話で爆笑しながら、しかし馬鹿な会話の端々からいかんともし難い彼の悩みが感じられると、やはり全くあの頃のような笑い方はできないのだと確信する。ひとしきり飲んでから、僕らはカラオケに行くことにした。古い仲間とカラオケに行くと、大抵懐メロ合戦に終わるものだが、なぜか彼とカラオケに行くとそうはならない。如何に聴き手を爆笑させるかという勝負の合間で、僕はふと、適当にnujabesなどをかけてフリースタイルを試みた。ひとりでは全くできないし、他の誰かの前ではやろうとも思わないフリースタイルだが、酔った勢いと、このふざけた雰囲気で乗せると、辿々しいながらもなんだか形になっていく。このノリならいける。ラップなどしたことない彼にマイクを振ってみると、案の定脱力したフロウで返してくる。その日はそれ以降、下手なフリースタイル合戦になった。ちょっと頭使う感じが楽しいな、という彼の感想を聞きながら、町田中央図書館の近くで缶ビールを開けた。これは朝までの感じなんだけどなーと言いつつ、僕は横浜線の終電で八王子に帰っていった。

◇推敲中。