web版:ラッパー宣言(仮)

ビートでバウンス 唇がダンス

午前11時。バッタのジャンプを追いかける。

◇やっとのことで捕まえて、娘に見せようと手を開いた瞬間、やっぱりバッタは手のひらから逃げてしまった。娘はバッタをハッパと呼び、しばらくその辺を探し回っては別の葉っぱをちぎっていた。

◇こういうとき、娘はあまり物怖じしない。同じ年の頃、息子は大抵、私の後ろに隠れようとしたものだった。そして私も元来、虫や魚を素手でつかむのができない方なのだが、子どもたちと遊ぶうちに、いつのまにか抵抗なくつかめるようになっているのに気付いた。

◇近所の用水路にザリガニが出没し始めた。夜になるとカエルの合唱は聞こえるけど、オタマジャクシはまだ見当たらない。そろそろ水遊びが気持ちいい季節。

多摩川沿いに住んでいるにもかかわらず、これまであまり川で遊んでこなかった。私の住んでいる地域周辺の川は水質が良く、鮎やうなぎを釣って食べている人も結構いるらしい。物好きな人は、オイカワやウグイなどのハヤや、モロコ、カジカなども食べているようだ。それを知ってから、急激に川釣りがしたくなった。

◇日曜日、いつも通り京王線途中下車の旅で多摩センターに行った後、私と子どもたちの三人は休む間もなく近所の浅川へ遊びに行った。
 浅川は、八王子から日野へと流れる川で、私の家のすぐ近所で多摩川と落ち合う。数日前に息子とピアノの習い事帰りに発見したちょうどいい浅トロがあったので、そこの近くでプライベートビーチもしくは秘密基地っぽい雰囲気を楽しみながら水遊びをした。ついでに釣り糸を垂らして遊んでいると、小さなオイカワが釣れた。少し遠く、下流の方に目をやると、ぴちぴちとライズしている様子が見える。
 いくら浅いトロ場とはいえ、兄妹のそばを離れるわけにはいかないので、残念ながらオイカワのポイントに行くのは見送る。結局釣れたのはその1尾だけで、リリースするか迷っていると、息子が遠慮がちに小さな声で「連れて帰りたいな」と言う。あまりものを欲しがったりすることのない息子だが、どうしてもというときは、たまにこうして“遠慮がち”に“小さな声”で希望を伝えてくる。小さなオイカワを丁寧に連れて帰って、家で留守番している妻に自慢した。あとそれから、食べることにした。

◇私がオイカワを絞めたり内臓を抜いたりしていると、息子は、生きた魚を見るのも、調理して食べるのもはじめてだとしきりに話し、おっかなびっくり見ていた。生きた魚を見るのははじめてではないはずだが、おそらく水族館だとかペットショップだとか生け簀だとかにいる魚と、川から釣ってきた魚というのは、感覚的にかなり違うということなのだろう。
 果たして6センチほどの小さなオイカワは、片栗粉をつけて揚げたためにめちゃくちゃ小さくなり、それをさらに家族4人で分けることになった。ただ、それでも淡白な川魚の味がして、とてもおいしかった。
 ここに住んでからそれなりの時間が経つわけだけれども、この場所に住んでいる実感がようやく沸いてきた。

◇翌日の月曜日。オイカワのポイントをみすみす見送ったのが悔しくて、仕事前に少し釣りに出た。
 鮎の解禁直後だからだろう、平日にもかかわらず釣り人の姿が結構あった。自分は安い万能竿で、1時間弱でオイカワ9尾+小さなカワムツ1尾。なかなかいい感じだった。絞めて、冷凍保存だけしてから仕事に出た。
 仕事も打ち合わせ一本だけ終えたら早々に切り上げ、夕食に間に合うように帰宅した。冷凍庫から取り出して自然解凍したオイカワを調理したが、やっぱり獲れたての方が処理しやすかった。カワムツかと思ったのは実はオイカワだったかもしれないが、正直揚げてしまうと全然わからない。おいしいはおいしいけれど、もう少し調理のバリエーションがほしい。いろいろ挑戦してみようと思う。

◇先日、ONE MEKONG MEETING VOL.1というトークイベントに行ってきた。stillichimiyaのYoung-Gがタイを歩きながら発見したアジアのヒップホップを中心に、MMM、空族のふたり、Soi48のふたりを交えてこの辺の現代ダンスミュージックを紹介するというもの。wi-fiが強い環境下では、youtubeが音源チェックのインフラとして確立して、ミュージシャンたちはライヴで稼ぐという。チャンス・ザ・ラッパー方式がやっぱり健全なんだろうなと思う一方で、とするならば、いわゆる音源制作というものにはビデオ制作という側面が強くなってくるのだろうとも思った。コンサートホールの誕生からレコードに至る流れは、雑多な情報のなかから音のみを取り出す情熱によって成り立っていたわけだが、youtube以降は映像と不可分な音楽の領域が、再び力を強めている。もちろんゴダールについて考えた方がいい気はするけれど、その前に、なんとなく『家族ゲーム』の方を考えなければならない気がしてきた。

◇ONE MEKONG MEETINGで知ったやつ。YBg - ให้โอกาส (Official Music Video)。全体的にDRAMのBroccoliにも似てる。かなりイマドキ感があるとともに、sushiboysとの共通点も。