web版:ラッパー宣言(仮)

ビートでバウンス 唇がダンス

午後8時。こたつで寝たら寒かった。

◇いつも気持ち良さそうに寝息を立てている妻を真似てみたのだけれど、どうにも塩梅が悪い。結婚記念日。

◇とりあえずケーキでも買おうということで八王子のそごうへ。慣れないデパ地下をぶらぶらしながら、結局あまり食べたいケーキも見当たらず、帰りに寄ったコンビニで雪苺娘を買った。おせちの残りで乾杯した。

◇年越しは妻の実家。紅白を見て、寝て、初日の出を見る。僕と妻と妻の両親が多摩川沿いで初日の出を待つ間、柴犬の奈々は早く帰りたがる。寒さと眠さを訴えている。淡々と日は昇り、昨日と同じ様な景色が広がると、たしかに奈々の言っていることもわかるのだが、私達はそういうものに区切りの線を引くようにしているのである。妻は、日の出がよく見えるよう彼女を抱き上げた。二組の夫婦と犬の顔が赤く照らされ、ひとしきり全員が目を細めてから、帰り道、奈々は初のフンをした。僕は初のフンを拾った。
 昨年末、奈々は体調を崩した。もうダメかもしれないという電話を受け、慌てて駆けつけると、彼女はヨタヨタと玄関まで迎えにきてくれた。最期の力を振り絞っているかのようで、なんとも不憫な姿であった。もうほとんど目は開かず、声を掛けても反応が薄い。水の入った容器を近づけても飲む気配がない。横になった彼女の呼吸は、どんどん浅くなっていくのであった。妻の最も大変だった時期を知る彼女は、果たして今の僕らを見て安心しているだろうか。少し感情的になる僕の横で、妻が指に水をつけて奈々の口元を濡らすと、忽ち、弱々しいが確かに水を飲み始めた。何度かそれを繰り返すうちに、目は開き光を得て、動きにキレが戻り、僕らが帰る頃には尻尾を振りながら義父にジャーキーを強請るようになっていた。翌日は何事もなかったかのように散歩に行ったそうで、また次の日、僕らが大晦日にお邪魔した時には元気にお迎えに来てくれた。そんな風に年を越した。もしかしたら、熱っぽかっただけなのかもしれない。

◇年末は紅白を見ていたので、『絶対に笑ってはいけないスパイ24時』は動画で見た。明らかに意欲的な雰囲気とは言い難いけれども、保守層とメタ(的な見方をしたい)層の両方に訴えるという意味では、紅白の向こうを張る番組になっている気がする。楳図かずおとまーくんが新喜劇を演じる画は、どう見ても凄いと言わざるを得ない。でもそういう姿勢をダウンタウン及び番組が引き受けていくのだとしたら、それはそれで悲しい。なにしろ、今回個人的に腹を抱えて笑ったのが中村雅俊いつもここからの“ネタ”だったというのが、やっぱり寂しかった。
 この企画において、ダウンタウン、ココリコ、山崎邦正は、基本的には見出す側に専念する。笑わす側に立つのは、企画する方だ。『絶対に笑ってはいけない温泉旅館一泊二日の旅』をはじめてみたとき、松本人志をはじめとする彼らの視点の高さまで登っていける仕組みに、僕はものすごく興奮したのを覚えている。しかし、回を重ねる毎に、そんな“見出す悦び”も予測の範疇におさまりがちになってしまい、今回などは休憩時間中のメンバーのやりとりすら、そのメンバーの行動を見越した上での仕掛けになっている気がした。
 単刀直入に言えば、マンネリ化して、インフレを起こしているように見えてしまう。ここらで来年あたり、モリマンvs山崎邦正一本で行ってくれたら感動するんだけれども。

◇MC紳士&MAD刃物『三十路の衝動』

恥じらいと二の足が、本当の感情なんだよ!

◇元旦のタワレコで、ニトロの新しいアルバムを試聴。正直超いいと思った。『自由研究』なんか、SUIKENのリリックがめちゃくちゃ良くて泣いた。個人的に、日本語ラップシーンにおけるフロウと声の完成は、ニトロの登場で極まった。あれから10年以上経って、彼らの最大の武器であるフロウと声を実験しながら、同時にリリックを聞かせられることになるとは! どうにも熱くなってしまった。
 僕はニトロの登場以降、一度日本語ラップを聞かなくなった。後追いで、スチャダラパー『彼方からの手紙』を聞いてからリリックの中身に興味を持ち、seeda以降の日本語ラップを知ることになったのだけれども、そんな風に個人的にはベストのタイミングでニトロがこういうアルバムを出してくれたことは、すごく嬉しい。お小遣い貯まったら買うぞ!
 というわけで、今年はますますhiphop熱が高まりそう。