web版:ラッパー宣言(仮)

ビートでバウンス 唇がダンス

午後2時。汗ばむ肌と、熱い風。

◇机に広げた私のノートの上を、山手線と京王動物園線プラレール車両が走っている。膝の上に強引によじ上ってきた息子が、私を多摩動物園上野動物園に連れて行ってくれるのだそうだ。熱風の吹き込む部屋で、ふたり同時に一カ所に固まって架空の動物園を散策していると、本当に炎天下の動物園を歩いているのと同じくらい汗をかく。

◇昼下がりに雨が降って、夕方の風の温度が少し下がっていた。昨夜とは打って変わって、涼しい夜である。妻の実家で夕飯をとりながら寝てしまった息子を抱きかかえ、妻と話しながら我が家まで歩いた。気持ちがよかった。

◇昨日は、久々に立川の花火大会へ。妻と付き合っていた頃からずっとなじみのある花火大会だが、考えてみると、前回行ったのは結婚した年の夏で、なんだか久しぶりであった。当たり前のような顔をして、息子は両親のデートに参加してくる。
 学生時代は主に、建物の屋上のビアガーデンから観覧していたのだが、今年は立川花火大会の穴場スポット等を調べることにした。混み具合としてはちょうど良い感じだったけれど、取った場所が悪かった。花火の打ち上がる方角を正確に掴めていなかった。大空に打ち上がった花火が、ほとんど木の陰に隠れてしまうのである。花火が上がっていく様子が見え、どーん、という音だけが空気を震わせ、しばらくすると降りて来る色とりどりの火の粉が葉っぱの下から見える。花火の音の大きさと周囲の歓声から花火の様子を想像する、という有様だったが、それでも、息子ぐらいの体の大きさだと結構見えるようで、何色の花火なのか、体が大きいせいで花火の見えない私に教えてくれる。赤、緑、ピンク、青、白…。白というのは、着色されていない花火のことだそうで、実際にはオレンジがかった色を指すようだった。
 花火大会の終了時刻までいると、帰路が大変なことになるので、30分ほどで切り上げることにした。帰りのモノレールに乗り込んで気がついたのだが、立川一帯で、花火が一番綺麗に見えるのは、おそらくこの多摩モノレールなのである。途中駅のホームからちょっと続きを観て、それから車窓からまた花火を眺めながら、家族三人のデートを終えたのであった。あまり夜出歩く機会のない妻は、家族三人の夜遊びに珍しく高揚していて、しきりにコンビニで甘いものを買いたがった。だが、自宅の最寄り駅に着く頃には、すっかりくたびれてしまっていて、ケーキ食べる?アイス食べる?と聞いても、首を横に振って眠そうに目をこするだけであった。

◇今更ながら、『まんが道』をきちんと読んでいる。名場面の迫力もさることながら、彼らまんが道を行く若者たちと、その周囲の、社会情勢みたいなものとのリンクのさせ方が非常に緻密なのにも驚く。それは特に、かつての同級生たちを通して象徴的に描かれることがある。満賀は、社会と自分の間にまんが道というクッションを挟んでいて、ある種のソフィスティケイトがある、と読むこともできるわけだけれど、ただ、まんが道を行かなければ、満賀は社会を、何か実体を伴ったものとして感知することもできなかっただろう。



結構ギリギリな感じもあるけど、かっこいい。てか、割と耳がいい類の人だと思う。