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web版:ラッパー宣言(仮)

ビートでバウンス 唇がダンス

web版:MOMENTインタビュー(アラザル掲載原稿より抜粋)

hiphop

◇以下のインタビューは、アラザル本誌に掲載予定の『MOMENTインタビュー(仮題)』からの抜粋です。
 3月17日、MOMENTのsoundcloud上に新曲『Fight Club』が突然アップされました(→http://soundcloud.com/swagcat-joon/fightclub-control-remix)。ここで彼は、Kendrick Lamarが旋風を巻き起こしたBig Sean『Control』をビートジャックしつつ、各方面のラッパーについて言及しています。MOMENTは、なぜこのビートのうえで、何を意図して『Fight Club』を発表したのか。そのコンセプトについて語っている部分を中心に再編集し、本誌より一足先に公開します。
※註:このインタビューは、3月6日に行われました。

web版:MOMENTインタビュー

(略)
 金正恩が第一書記に就き、朴槿恵安倍晋三が相次いで大統領と内閣総理大臣に就任した2012年。日本語ラップシーンにとっては、アップカミングなアーティストとして注目を集めていたMOMENTが、韓国軍に入隊した年である。
 日本語・英語・韓国語を跨ぐ韻で、豊かなグルーヴを魅せることの出来るこのラッパーは、韓国で生まれ育ち、2010年の大阪大学入学と同時に日本での活動を始めた。阪大ヒップホップサークルのMASTERMINDに入って、精力的にライヴやレコーディングをこなしながら、2012年4月12日の入隊直前まで、わずか2年ほどの間に数多くの音源を発表している。この間にリリースされた3本のMIXTAPEと1枚のEPは、いずれも耳の早いヘッズの間で話題となり、今後の活躍に大きな期待が寄せられていた。徴兵は、そんな矢先のことであった。
 2014年1月2日まで続く21ヶ月の兵役期間は、さすがのMOMENTもシーンを離れ、活動の休眠を強いられるものと思われた。しかし彼はそんな大方の予想を裏切って、体力勝負の軍隊生活を送る一方で、食事の時間を削りながらリリックを書き溜め、少ない休暇を全てレコーディングに費やしながら、音源を発表し続けた。結果、この期間中に『THE GAME WAITS ME vol.1』『vol.2』というふたつのミックステープまでリリースすることになる。移り変わりの早い日本語ラップシーンにおいて、MOMENTはこの2年間、しっかりとその存在感を示し、除隊後の本格復帰までに、新しいリスナーを獲得し続けることとなった。
 2014年の3月。本格的な活動再開の準備として、東京に訪れていたMOMENTに、今の心境、及びこれまでとこれからの活動について、じっくり語ってもらった。


(略)
――軍隊生活を経て、今の日本社会はどんな風に見えていますか?

M:まず、これは変わってないところですが、日本は相変わらず平和です。良い言い方をすれば平和ということなんですが、だけどそれは競争心が足りないってことでもあって、悪く言えば退屈でもあるんです。『Control』の事件*1は、僕が軍隊にいる間に起きた出来事です。アメリカはもちろんのこと、全世界のヒップホップファンの間ですごく盛り上がって、韓国のラッパーでさえ、あのビートのうえで何十人ラップしたかわからない。そこではディスもありましたが、基本的にはみんなトップになりたいって思いをもって、このゲームに乗ったんです。

――自分を、全世界のヒップホップシーンのなかに位置づけている、ということですね。

M:でも日本でビートジャックしてたのって、3~4人くらいしかいなかったですよ。よかったものもありましたけど、全体的にあんまりっていう感じでしたし。そういう状況見てたら、やっぱりどうしても、競争心が足りてないんじゃないかって。

――例えば、MCバトルのようなものは、最近の日本でも定着しつつありますが、そういった意味での競争とは、どう違いますか?

M:バトルはあるけど、バトルラッパーはバトルラッパー同士でやってるし、それでひとつのジャンルになってしまったような気がします。彼らがヒップホップを音楽として捉えて、広い世界のヒップホップシーンまで見据えて競争してるかっていったら、疑問です。R指定の今回のシングルだって……、正直彼のラップ自体は好きなんですが、でも「日本語ラップ聴いて日本語ラップやりました」っていう、典型的な作品に聴こえました。それじゃあ意味がないがないんじゃないか。だから、『Control』で僕がやろうと思うんです。

――ディスるんですか?

M:ディスじゃなくて挑発ですね。もっとお前らもやって欲しいって呼びかけるんです。Jinnmenusagi、Kiano Jones、Ry-lax、RAq、Kojoe、MATCHとかに。それから、R指定やチプルソも入れようと思っています。R指定とかチプルソは、同じシーンでも僕のようなスタイルと違う系統というイメージを持っているリスナーも多いと思うんです。僕から彼らに対しても呼びかけるのは、その系統で間違いなくトップだからです。トップがもっと広い世界を視野に入れて、他のものも吸収して、もっと上のレベルで新しいものを見せれば、下のやつらの耳も広がると思うんです。そういう意味では、この前、『HEYLAS』*2がありましたが、Ken(the 390)さんディスるわけじゃないんですけど、ビート選びが違うと思いました。こんなサウンドでやるのか?って。世界的に見れば、『Yeezus』なんてのがもうあるのに。

――他のラッパーは、どんな理由で?

M:JinmenusagiはLOW HIGH WHO?でやってる、本当に、僕個人的にはハードウェアだけで見れば日本で一番ラップがうまいと思う人です。Kiano Jonesはまだ中学生ながらアップカミングな存在として注目されている黒人とのハーフ。Kojoeは海外のものを日本に持ってきてやってる。そんな風にそれぞれが、全員全然違う場所でやってるけど、全員競争心あるってことは俺にはわかる、だからお前らもやれよって。俺は彼らが返してくれれば、別に殺されてもいいんですよ。うまいアンサーが来て俺が負けても、俺には損することなんて何も無いから。

――こういうゲームが設定できれば、その時点でまず勝ちって言えると思います。『Control』のKendrickも、確かに喝を入れてるようなところがありました。

M:『Control』のビートジャックは、いまさらって感じもあるし、やらなくてもいいかなって思ったりもしたんですけど、やっぱり日本帰ってきてみると、この状態に耐えられなかったです。今の日本語ラップシーンのなかに目を向けると、小さな島がたくさん点在してるけど、それぞれの交流があんまりない。競争がなくて、コミュニケーションがないっていうことが、すごいしんどいなあって。


 MOMENTの指摘するように、日本語ラップのプレイヤーのなかで、ヒップホップシーン全体をひとつのゲームと捉える者の方が、むしろ少数派なのかもしれない。少なくとも、日本語ラップシーンと洋ラップシーンを分けて考える流れは、いつのまにか普通のことになってしまった。日本だけが世界の競争から隔絶され、誰からも脅かされないことを望んでいるようにも見えてしまう。
 こうした隔絶への憧憬(ショウケイ)は、時として排他的な態度にも結びつく。安易に結びつけたくもない話だが、例えばネトウヨ的な心性は、何か都合の悪いことが起きるたびに「これは日本人の仕業ではない」などと発言する。その姿は、社会と、誰からも脅かされない自分の部屋を、同一線上に配置する者の成れの果てと言えるだろう。「競争がない」という指摘は、こうしたプライベートな部屋以外の場所が見当たらないことであり、つまり、パブリックな場所が用意されていないことでもある。競争は、同じルールのもとで、個々の違いを提示し合う。ルールの共有を前提とする「公共」が用意されて、はじめて個々の違いは認識され、共存を感覚することも可能になるが、しかし、そもそもそうしたルールの共有すら設定できない状況下では、個々の違いはなかったこととされ、あらゆる存在には全肯定か全否定のどちらかの態度しか用意されない。


M:日本は、僕が入隊する前に比べて、もっと「外人大嫌い」って風潮が強くなりました。毎日ふわふわして、平和っぽい雰囲気のなかで、ありがとうばっか言ってるJポップとか聴いて…。それ自体を悪いとは言わないけど、でも、ふわふわした雰囲気のなかで、何事も受け身で、考えることをしないって人ほど、政治家とかが何か言い出したら、簡単に巻き込まれて外国嫌いになる。でも、僕は個人的には、ヒップホップならそんな態度を変えられると思うんです。今の日本から抜けてるものを、ヒップホップは全部持ってる。自発的だし、レベルミュージックでもあるし、と同時に、物欲とか成功欲とか、そういう欲望にも素直だし、だから競争もするし。個人的に僕は、ヒップホップこそが日本社会を救えるツールだと思ってるんです。

――日本語ラップは、日本社会をそのまま写し取る側面が強いと思います。だからといって、日本社会が競争心を失っている様子まで模倣し始めたら、かなり厳しいです。

M:ただ、僕が日本語ラップのプレイヤーのひとりとしてこういうことをやっても、「外国人の目」みたいな感じでカテゴライズされるかもしれなくて…。それは心配だったりします。

――正直、その危険性はあると思います。それこそ細分化された日本語ラップの島のひとつにされちゃって、どうあがいてもコミュニケーションが生まれなくなってしまう。カテゴライズされると、「こういう人」としか見てもらえなくなりますね。

(略)
M:例えば僕自身のことを言えば、競争しろって思ってたり、反レイシズムの立場だったりするし、ラップのなかでそういうことを煽ったりします。でも、だからと言って、何かひとつの枠組みにカテゴライズされることは嫌いなんです。

――「外国人視点」とか、「コンシャスラッパー」とか。

M:実際、デモの主催者の人とかからパフォーマンスの依頼が来たりもします。確かにそういうところでラップしたら、かなり盛り上がるとは思います。でも、それはちょっと違うんじゃないかって思うんです。

――と、いうのは?

M:芸術はどこまで芸術なのかって話になっちゃいますけど、僕がラップでやろうとしてることって、自分の考えとか意見を論理的に説明して、相手に理解を求めるってことではないんです。それなら、きちんと論理的に書いた文章とかでやるのが筋です。ラップって、だから、モチベーションを上げたり、高揚させたりするだけです。はっきり言って、これって危険なことですよ。

――おっしゃる通りだと思います。ラップが扱うトピックは、ラップを前に進めるためのエンジンにはなります。だけどMOMENTさんは、そこから先については、やはり芸術の領域として扱うべきだ、という立場ですね。

M:僕がライヴの最中に政治的な立場を表明したとしても、お客さんに同意してもらいたくて言ってるわけではないし、ただひとりの人間として表明しているだけです。大事なのは技芸(クラフト)としてのラップです。キングギドラだって、右翼な内容のラップしてますけど、それとは別に、きちんとラップの巧さ、渋さが魅力的だし、そこに到達するまでの努力とか才能に対して、僕はちゃんとプロップスを持ちます。

――ラッパーの主義主張と、ラップっていう表現の間には、きちんと線を引いておく、と。

M:自分はラップでモチベーションを上げるだけです。モチベーション上がって、現実的にパブリックな場に出ていって、政治的なアクションを起こしたいっていう人々は、それはそれで彼らの役目としてやってもらえばよくて、僕はそことは関わらない方がいいって思っています。そうしておかないと、僕が彼らの思ってることを代弁するみたいな感じになっちゃうし。

――ラップがラッパーの主義主張を伝えるためだけにある、と考えてしまうと、ラップの表現力みたいなものには注意が行かなくなりますね。当然の話ですが、MOMENTさんのラップには自分の主張を前に出したものもありますけれども、もっと多くのラップが、別のテーマから成り立っています。

M:仮に僕が政治的アクションを必要として、目的にしているんであれば、ふたつをはっきり分けなくてもいいのかもしれない。でも、僕はもっとパーソナルな部分も話したがっているし、決してそこが本質ではないんです。ひとつのカテゴリーに押し込まれることで、そうした部分が捨てられることは避けたいと、強く思っています。


(略)
 MOMENTはこの後、次のミックステープ/EPの予定や、客演について語った後、ソロアルバムの構想についても聴かせてくれた。明確なコンセプトとトラックリストも決まっていて、ビートはまだないが、すでにリリックも書き始めているという。『EASY WORLD, TROUBLED CHILD』というタイトルの冠されるそれは、かなり細かいところまでプロットが立てられており、その底部には、彼の思索的ともいえる文学的逡巡が流れている。ディテールを伴った語り口でイメージを伝えてもらったが、絶対に作品に昇華されなければならない、という印象を強く持った。「いつまで日本に居られるかわからないので、どこまで実現できるかわかりませんけど」と、ちょっと困った顔をして見せてから、彼は最後にこう語った。


M:多分あの軍隊経験も関係あると思うんだけど、人生短いし、やれることは本当に限られてるんだって、切実に思うようになりました。訓練中に死んだ先輩もいたし、足使えなくなったり、片耳聞こえなくなるやつもいました。自殺未遂して精神病院に行ったやつもいた。なんでこんなところで、2年間っていう貴重な時間を無駄にしなきゃいけないんだって何度も思いました。でも、軍隊に来なければ、この時間の貴重さにも気がつかなかったはず。だから日本帰ったら、失った2年分、もっとやる。今回も東京来て7日間、ずーっとスケジュール詰めていて。ひとりだけの時間なんて1時間もないですよ。さすがに疲れました(笑)。ちょっと眠いです。

*1:※註1『Control』の事件:Big Seanのアルバム未収録曲『Control Ft.Kendrick Lamar & Jay Electronica』が発表されるやいなや、客演のKendrick Lamarの蹴ったヴァースが、ヒップホップ界の話題をさらっていった事件。コンプトン出身でありながらKing Of NewYork(Biggie Smallsの別名でもある)を名乗り、“I got love for you all but I'm trina murder you niggas”と、身内を含む人気ラッパーを名指し。現在、ヒップホップ界最高の実力と人気と勢いを誇るKendrick Lamarの挑発によって、有名無名を問わず、シーンの全てのラッパーがこのゲームボードに乗せられてしまった。アンサーを出したりツイッターで言及したり、ほとんどのラッパーがこの件に関してなんらかの反応を示している。かつての東西抗争とはまた異なり、成熟した「リアル」を提示するビーフとして、ヒップホップ史に刻まれると思われる。 (参考:http://ameblo.jp/clubcrunk/entry-11592470504.html

*2:※註2『HEYLAS』:WHITE JAMのSHIROSEによるコンピレーションアルバムからのプロモーション曲「HEYLAS/KEN THE 390 feat. GASHIMA,ISH-ONE,SHIROSE,TOC」のこと。非難することしか能がない、いわゆる「ヘイター」へのアンサーをテーマとすることで、“Jラップ”として批判を受けやすいメジャーと、日本語ラップアンダーグラウンドを接続する試み。youtubeを中心にプロモーションを行い、アカペラやインストゥルメンタル音源を無料配布。リミックスやビートジャックを積極的に推奨した。 (参考:http://matome.naver.jp/odai/2139168607225507901?