web版:ラッパー宣言(仮)

ビートでバウンス 唇がダンス

午後3時。額に汗して寝息を聞く。

◇電車移動中、娘が一週間ぶりに昼寝をした。抱きかかえて歩いていると、春になったかのような心地がした。

青梅鉄道公園に行った。青梅駅から徒歩15分ほどの距離にあり、山の上にあるので心配したが、子どもたちはよく歩いた。つい先週まではすぐに抱っこをねだっていた娘も、自分の足でほとんど登り切ってしまった。こちらの都合で抱き上げてしまうと、かえって怒りを買うことになる。だから帰りの電車で眠ってしまったときは、ある意味ではチャンスだった。
 この日は青梅マラソンも開催されていたようで、私たちが青梅駅に着いてしばらくすると、駅舎の上にスタートかなにかを知らせる花火が鳴り響いた。鉄道公園までの道すがら、ふと下の景色を振り返ると、ランナーたちが次々と通りを走っていく様子が見えた。

青梅鉄道公園蒸気機関車の車両展示が豊富だった。特徴的なのは、ほとんどの展示車両が、運転席や機関士席などに座れるようになっている、ということだった。車両展示自体は他の鉄道博物館や交通公園などにもよくあるが、運転席に座れる展示車両はほとんどない。ミニSLのようなアトラクション的な乗り物ももちろん好きだが、息子はこういうところではいつも車両展示を一番楽しみにしている。おそらく、機関車の運転席に座ることができたのは初めてだった。夜寝る前に今日楽しかったことを尋ねると、息子はやはり、蒸気機関車の運転席をじっくり見れたことを挙げた。娘は、200円入れて2周するアンパンマンの遊具を挙げた。

◇ピアノを使って作詞作曲をする、というのが息子のこの週末のブームだった。工作などが好きな兄の影響なのか、色のついた紙を千切って袋につめて、粉末ジュースを自作する、というのが娘のこの週末のブームだった。

◇息子の作詞作曲遊びは、土曜日に従姉と遊んでいるときにはじまったらしい。新曲の制作を発注するとテーマがないと作れないと言うので、家では私がお題を出し、息子がそれについて曲をつくる。詞先とも曲先ともつかない感じで、大体言葉のシラブルがそのままメロディになる。話すことと歌うことがシームレスにつながっていて、アクセントや抑揚がそのまま音の高低になったりする。だから、メロディだけ聞かされても、お題と合わせて考えると、どんな歌詞がついているかをなんとなく当てることができる。作詞作曲遊びは、クイズの様相を呈していた。
 想像される詞とメロディの音数が合わない曲があった。答えを歌ってもらうと、詞はこちらが想像した通りのものだったが、最後に一音、純粋にメロディとして音を加えていた。そしてその音は、曲中唯一、2音同時に和音を鳴らしていた。

◇土曜日はいつも利用している書店で、赤坂憲雄氏と土方正志氏によるトークイベントがあった。土方氏は、赤坂氏の東北学関連の著作を数多く発表する版元「荒蝦夷」の編集。ご自身でも著作を多く持つ。イベント自体は東北学から武蔵野学へといった話になっていたのだが、東北に比べ、武蔵野を流動的と語っていたのが印象的だった。
 国木田独歩のいう「武蔵野の風情」とは、その時点ですでに外部の目線に晒されたものである。ある種のソフィスティケートされた自然の姿であり、抽象化されている。土地と人が分かちがたく結びつく場所ではなく、土地が一旦抽象化されるというのは、人が流動的な都市で起きる現象だ。武蔵野というのは、都市化された自然のことを指しているのではないか。

◇ちなみにこのイベントで知ったが、これ面白い。
http://ktgis.net/kjmapw/

◇ただ、個人的には武蔵野の雰囲気は、こちらの手に収まる印象が強すぎて好きではない。河川も山林も、人の手を介さない状態というのはほとんどないが、武蔵野くらいまで制御可能なものに変換されてしまうと、どうしても物足りなく感じてしまう。私にとって武蔵野は玉川上水だが、玉川上水に変換される以前の多摩川の方が、いつでも人を殺せる感じを漂わせている。

◇考えたら、動く赤坂憲雄は、『柳川掘割物語』のDVD特典で高畑勲と対談していた頃しか知らなかった。

ナンバーガール再結成。案の定、差別主義者になってしまったドラマーと組むのか、という声が噴きあがっている。私もつい、再結成の報を聞いて「ネトウヨは治ったのだろうか」といったツイートを反射的にしてしまったのだが、考えたらそれは人のご家庭についてとやかく言うことと同じだと思った。よその家族、よそのバンドメンバーの問題は、外からはわからない。周囲の人は周囲の人なりの接し方で身内の差別主義者と付き合っていく態度が求められる。仮に私の身内に差別主義者が出てしまったとして、暗澹たる気持ちを抱えながらも、しかし積極的に彼らとの関わりを作っていくべきだと、私は考えている。もちろんその反対に、身内だからこそ関わりを絶つべきだと考えることもできるだろう。そういった身内ならではの問題の抱え方は、外部からはなかなか理解できないものがあるはずだ。

◇Freddie McGregor『If Love Was to Die For』。
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